笑ってあげようかな

ぼくはとても特殊な顔で
表情を変えるときはいつも顔をくるくる時計まわりに廻していて
然るべき表情でぴたりと回転をとめた
喜怒哀楽なんでも御座れ
ぼくは君のために
怒ってあげようかな
泣いてあげようかな
笑ってあげようかな
顔をくるくる横回転させながら彼女に聞くと
彼女はこう言った
「普通の顔はないのかなぁ」
普通の顔を用意していなかったぼくは途方に暮れた
普通の顔はどこにある
喜怒哀楽なんでも御座れ
喜怒哀楽に普通は無い
仕方なしにぼくは
右手で自分の顎を掴んで後ろ向きに縦回転させた
彼女の喜ぶ声が聞こえたけど
ぼくの顔は内側にあるから彼女の笑顔は見えない
それでもいいや
どうか外側のぼく
彼女をいつまでも笑顔でいさせておくれ
内側にいるぼくは内側で
彼女のために笑っていてあげようかな